ニュースの概要
AST SpaceMobileは11月6日、低軌道に展開する通信衛星「BlueBird」を打ち上げるため、20トン級の再使用型ロケット「Blacklift」を自社で開発すると発表した。運用開始は2028年後半を目標とし、1回の打ち上げでBlueBirdを最大5機運ぶ計画である。エンジンにはFirefly Aerospaceの「Miranda」と真空用の「Vira」を採用し、初期3機分の供給が見込まれている。衛星メーカーが自らロケットの設計に踏み込む動きであり、衛星の製造から打ち上げまでを自社で握る方向へ舵を切ったことになる。
引用元: AST SpaceMobile、BlueBird衛星向け再使用型ロケットを独自開発(Business Wire / AST SpaceMobile)
分析・見解
衛星メーカーが自らロケットを持つ理由
BlueBirdは、スマートフォンと直接つながる大型のアンテナを備えた衛星である。アンテナは展開すると約223平方メートルにもなり、衛星1機がかなり大きく重い。そのため一般的なロケットでは、1回に運べる機数が限られてきた。
今回のBlackliftは、1回で最大5機を運ぶ前提で設計される。つまり衛星の大きさに合わせてロケットを作る発想である。市販のロケットに衛星を合わせる従来のやり方を、逆にしたと言える。
打ち上げ枠の取り合いが最大のリスクになってきた
衛星通信では、数百機規模の衛星群を一定の時期までに並べないと、サービスが成り立たない。ここで足を引っ張るのが打ち上げ枠の不足である。SpaceXのFalcon 9は圧倒的な頻度で飛ぶが、競合であるStarlinkの親会社でもある。競合の都合に打ち上げ日程を左右される状態は、経営上の弱点になる。
AmazonのKuiper計画でも、打ち上げ手段の確保に何度も苦労した経緯がある。ULAやArianespaceなど複数社に発注を分散させたのは、その対策だった。AST SpaceMobileの決断は、さらに一歩進めて自前で持つという選択である。
エンジンを外部調達する現実的な割り切り
注目したいのは、エンジンまでは自社で作らず、Fireflyから調達する点である。ロケットの中で最も開発が難しく、失敗しやすいのがエンジンだ。ここを実績のある会社に任せ、自社は機体の設計と運用に集中する。
これは、SpaceXが一から全部を作ったやり方とは違う。リスクを抑えた分業型の再使用ロケットであり、成功すれば新しい作り方の見本になる。一方で、Fireflyの生産能力が詰まれば、そのまま自社の遅れに直結する。供給元が1社に偏る危うさは残る。
2028年後半という日程の重み
再使用型ロケットは、初号機から回収と再飛行を安定して行うまでに年単位の時間がかかる。SpaceXのFalcon 9でも、最初の着陸成功から再使用が日常になるまでには数年を要した。
2028年後半の運用開始は、開発に残された時間が2年前後という意味である。しかも新規の大型機体としては短い。日程が遅れた場合の保険として、他社ロケットとの併用は当面続くはずだ。自社ロケットはあくまで中長期の備えと見るのが妥当である。
ビジネスへの影響
通信事業者は衛星直接通信を前提に戦略を見直す時期
BlueBirdの提携先には、世界各地の携帯電話会社が名を連ねている。打ち上げの見通しが立てば、基地局を建てにくい山間部や離島を、衛星でまとめて補う計画が現実味を帯びる。日本でも、通信の空白地帯を抱える自治体や事業者にとって、衛星経由の通話やメッセージは導入候補になる。
ただし、サービス開始時期は衛星の配備ペースに左右される。契約や設備投資の判断では、ロケットの開発が遅れた場合の代替手段を、提携先に確認しておきたい。
宇宙関連の取引先は調達リスクの見方を変える
衛星を作る側と打ち上げる側が一体になると、外部のロケット会社に入る受注は減る可能性がある。一方でエンジンや部品の需要は増える。Fireflyのように、部品供給で関わる企業には追い風になる。
部品メーカーや商社は、完成品の受注だけでなく、他社の自社開発計画に部品を供給する道も探る価値がある。取引先が内製化に動くかどうかは、決算資料や発表会見で早めに読み取れる。
投資や提携の判断で見るべき確認事項
投資家や提携を検討する企業は、次の3点を押さえるとよい。第一に、初号機の打ち上げ時期と、遅れた場合の代替ロケットの手当て。第二に、エンジン供給の契約条件と生産能力。第三に、1機あたりの打ち上げ費用の目標である。
この3つが具体的な数字で示されるかどうかが、計画の信頼度を測る目安になる。