ニュースの概要
米宇宙企業Starfish Spaceは、NASAが1,500万ドルを出した小型衛星「Otter 24C」による宇宙デブリ検査ミッション「SSPICY」が、打ち上げから約1か月で終わったと明らかにした。試運転の最中に、衛星の土台部分(Astro Digital製のバス)が持つ故障対策機能でエラーが起きた。その結果、搭載していた無線機が止まり、地上との通信を取り戻せなくなったという。SSPICYは、役目を終えた複数の衛星に近づいて状態を観察し、軌道上の「ごみ」の実態を調べる計画だった。肝心の接近観測に入る前に運用そのものが続けられなくなり、成果の多くは得られないまま幕を閉じた形である。
引用元: NASAの小型衛星による宇宙デブリ検査ミッション、通信断で早期終了(Payload Space)
分析・見解
守るための仕組みが、衛星を止めてしまった皮肉
今回の原因は、外部からの攻撃でも部品の物理的な破損でもない。衛星が自分を守るために備えている故障対策機能が、エラーを起こしたことである。
人間でいえば、体調不良を感じて自動で意識を落とす仕組みが、そのまま目覚めなくなったようなものだ。宇宙機は地上から手を触れられないため、異常時には自動で安全な状態へ移る設計が欠かせない。
ただし、その安全装置は動作の組み合わせが多く、試運転で初めて見つかる不具合が残りやすい。
「試運転中」という最も壊れやすい時期
衛星の故障は、打ち上げ直後から数か月の初期段階に集中するといわれる。これは「初期不良期」と呼ばれる考え方で、家電にも当てはまる。
小型衛星は、量産された土台を使ってコストを抑える。その反面、土台の制御ソフトは、個々のミッションの使い方と完全には噛み合わないことがある。今回はまさに、土台側の機能と搭載無線機の関係が問題になった。
過去にも、打ち上げ直後の通信不調で運用に至らなかった小型衛星は少なくない。珍しい事故ではなく、構造的に起きやすい種類の失敗だと見るべきである。
失われたのは衛星より、観測の機会だった
1,500万ドルは、衛星単体の価格だけではない。接近して観察するという、これまで実績が乏しい動きを実際に試す機会が含まれていた。
運用を終えた衛星は、姿勢や劣化の状態がよく分からない。そうした相手に安全に近づく技術は、将来のデブリ除去や延命サービスの土台になる。そのデータが取れなかったことが、今回の最大の損失である。
もっとも、Starfish Spaceは別の衛星を使った接近・ドッキング技術の開発も進めており、事業全体が止まるわけではない。官民で資金を出す方式は、失敗しても技術の蓄積が残るよう設計できるかが問われる。
軌道上サービス産業に突きつけられた課題
デブリ除去や衛星の寿命延長は、市場として期待が大きい。しかし各社とも、実証の段階で失敗を重ねている。
今回の件は、技術の難しさに加えて、機体の信頼性をどう保証するかという別の問題を示した。通信という最も基本的な機能を失えば、高度な接近技術は意味を持たない。
今後は、予備の通信経路を別系統で持つこと、そして故障対策機能を打ち上げ前に実際の条件へ近づけて試すことが、産業全体の標準になっていくだろう。
ビジネスへの影響
外部調達の土台は「中身の検証」まで含めて選ぶ
既製の部品や土台を使う開発は、早くて安い。ただし、その部品の異常時の挙動まで確かめていなければ、費用の節約分を一度の故障で失いかねない。
宇宙に限らず、他社製のシステムを組み込む企業は、正常時の性能表だけで判断しないことが大切である。異常時にどう止まり、どう復旧するのかを、契約前に質問項目へ入れておきたい。
失敗を前提にした資金計画と段階設計
今回のように、公的資金が入った実証でも1か月で終わることがある。投資や事業計画では、成功時の利益だけでなく、初期段階での停止を織り込んでおく必要がある。
実務では、試運転の段階ごとに「ここで止まったら何が残るか」を決めておくとよい。たとえば、取得済みデータの権利や、再利用できる設計資料を明確にしておけば、損失の一部を次の挑戦へ回せる。
通信や電源など「基本機能」の冗長化を見直す
高度な機能が注目されがちだが、止まったときの被害が大きいのは通信や電源といった基本機能である。自社のサービスでも、一つの故障が全体停止につながる点がないか、棚卸しをする価値がある。
小さな追加投資で別系統を用意できる箇所から着手するのが現実的だ。