ニュースの概要
JAXAは火星衛星探査計画MMXの探査機を、H3ロケットで種子島宇宙センターから打ち上げる予定だ。欧州宇宙機関(ESA)の発表によると、時刻は日本時間で10月20日の午前4時41分とされている。MMXは火星の2つの衛星のうちフォボスに着陸し、表面の砂や石を採取して地球へ持ち帰ることを目指す。火星そのものではなく衛星に降りる点が特徴で、火星の衛星がどのように生まれたのかという長年の謎に迫る。探査機は日本の大型ミッションであり、輸送を担うH3にとっても重みのある仕事になる。国際協力による観測機器も搭載される計画である。
引用元: 日本のH3ロケット、火星衛星探査機MMXを10月19日に打ち上げ予定(European Space Agency)
分析・見解
火星ではなく衛星に降りるという賢い選択
火星の衛星フォボスとダイモスは、どこから来たのか。この問いには二つの有力な説がある。ひとつは、近くを通った小惑星が火星の重力に捕まったという説。もうひとつは、巨大な天体が火星にぶつかり、飛び散った破片が集まって衛星になったという説である。
MMXの狙いは、フォボスの砂や石を持ち帰り、この論争に決着をつけることだ。フォボスの表面には、火星から飛んできた物質が混ざっている可能性もある。衛星に降りれば、火星本体よりはるかに低い難度で、火星のかけらまで手に入れられるかもしれない。重力が小さいため、離陸に使う燃料も少なくて済む。探査機はダイモスにも接近して観測する計画で、二つの衛星を比べることでも手がかりが得られる。この発想の賢さが、計画の核心だと考える。
リュウグウの経験は生きるが、遠さの壁は高い
JAXAは、はやぶさ2で小惑星リュウグウから約5.4グラムの試料を持ち帰った。重力の弱い天体に降りて採取し、地球へ戻す技術には、すでに実績がある。MMXはその延長線上にある計画だ。
ただし、距離の壁は桁違いに高い。火星圏では、電波が片道で数分から20分ほどかかる。地上から細かく操縦することはできず、探査機が自分で判断する場面が増える。旅も長く、地球への帰還は2031年ごろが想定されている。長い年月、機器が壊れずに働き続けられるかが問われる。
2年に一度の好機が、H3の信頼性を映し出す
火星への出発には、地球と火星の位置が整う時期が必要で、その機会は約26か月ごとにしか来ない。逃せば次は2年後だ。MMXの打ち上げが当初の2024年度から延びた背景にも、H3初号機の失敗があった。打ち上げ時刻が分単位で公表されるのは、この好機の狭さの表れでもある。
H3は2023年3月の初号機で失敗し、その後立て直してきた。今回のMMXは、その信頼性を実際の大型ミッションで示す場になる。ロケットは、載せる荷物の価値が高いほど評価される。ここで成功すれば、衛星の打ち上げ市場に向けた強い宣伝材料にもなる。
米国の火星計画が揺らぐなかで高まる存在感
米国の火星サンプルリターン計画は、費用が膨らんで先行きが不透明になっている。中国は2020年代末に火星の試料を持ち帰る計画を掲げる。この状況で、MMXは火星圏から試料を持ち帰る初の試みになる見通しだ。
見落とされがちな点がある。フォボスへの着陸と離陸、試料の封入、長旅での管理という一連の作業は、将来の火星本体からの試料回収の予行演習にもなる。成果は科学だけでなく、技術への信用という形でも残るだろう。
ビジネスへの影響
動かせない期限から逆算する計画づくりを学ぶ
MMXの最大の教訓は、動かせない期限から逆算して計画を組む点にある。火星への窓は2年に一度だ。逃した場合の損失は、遅れた分の人件費だけではない。2年分の維持費、機器の劣化、人材の離散まで含まれる。
一般の企業にも、展示会や決算期、法改正の施行日など動かせない期限は多い。そうした事業では、遅れた場合の追加費用を事前に金額で見積もり、予備の工程をどこに置くかを決めておくとよい。
部品から解析まで、宇宙の裾野に広がる仕事
大型探査機は、多くの国内企業の部品、素材、試験設備に支えられている。軽量素材、耐熱材、電子部品といった技術は、打ち上げのたびに実績として積み上がる。宇宙向けの採用実績は、他の産業で取引先を説得する際の信用にもなる。
中小の製造業は、自社の技術を宇宙用に磨き直せないか検討する価値がある。いきなり大型案件を狙うより、試験データと品質記録をそろえておくことが先だ。試料の分析や画像の解析、データ管理は、分析機器やソフトウェアの企業にも関係する。
宇宙事業に関心がある企業が今すぐできる準備
まず、打ち上げの成否に一喜一憂せず、次の発注の動きを追いたい。計画が続けば、部品の追加調達や運用支援の需要が生まれる。次に、国際協力の枠組みにも目を向けたい。MMXにはフランス、ドイツ、米国などの機関が観測機器や探査車で参加している。共同案件では、英語の契約書、輸出管理、知的財産の整理が欠かせない。体制を早めに整えた企業ほど、声がかかったときに動ける。
広報にも使える話題だが、打ち上げは天候や機体の状態で延期されることがある。日程を前提にした告知には、余裕を持たせておきたい。