ニュースの概要
日本の防衛省が、敵の攻撃や妨害で人工衛星が使えなくなった場合に備え、小型ロケットと代替衛星で機能を素早く取り戻す仕組みを検討していると報じられた。平時から代替用の衛星を用意しておき、必要になった時点で小型ロケットにより短期間で打ち上げるという構想である。大型ロケットと比べて小型ロケットは機動力があり、打ち上げの時期や軌道を状況に合わせて選びやすい。通信、位置情報、情報収集といった安全保障の土台を支える衛星が狙われる事態を想定し、壊されても立て直せる力を持つことが狙いとみられる。
引用元: 日本、防衛衛星を迅速に復旧する小型ロケット・代替衛星の開発を検討(Yonhap News Agency)
分析・見解
「壊されない」ことから「壊されても戻せる」ことへ
従来の衛星防衛は、守りを固めるという発想が中心だった。しかし衛星は宇宙空間にあり、装甲を厚くすれば重くなって費用も跳ね上がる。攻撃の手段も多い。電波を妨害する、センサーを眩ませる、ネットワークに侵入して乗っ取る、衛星そのものを破壊する。すべてを防ぐのは現実的ではない。そこで世界の軍事関係者の間では、壊れる前提で、どれだけ早く立て直せるかを競う考え方が広がっている。今回の日本の構想も、この流れの上にある。
打ち上げの速さが、抑止力そのものになる
米宇宙軍は2023年、Victus Noxという演習で、打ち上げ要請から約27時間で小型ロケットを飛ばした。通常は数か月から数年かかる準備を、極端に縮めた例である。ここで大事なのは、速さが単なる便利さではなく、相手への牽制になる点だ。衛星を一つ壊しても、すぐ代わりが上がるなら、攻撃する側の得は小さくなる。壊しても無駄だと思わせること。これが抑止の意味である。小型ロケットは設備が小さく、場所の選択肢も多いため、打ち上げ地点を相手に読まれにくい利点もある。
日本の小型ロケットは、まだ信頼を積む段階にある
一方で、国内の現状には課題が多い。JAXAのイプシロンは、改良型の燃焼試験で事故が続いた。民間のスペースワンのカイロスも、初期の打ち上げで目標を達成できていない。インターステラテクノロジズなど他の民間企業も挑戦の途上にある。要請から数日以内に確実に飛ばせる実績は、まだ十分とは言えない。代替衛星を用意しても、飛ばす手段が不安定なら構想は絵に描いた餅になる。ロケットの信頼性を高める試行錯誤が先に必要だ。
本当の難所は衛星を安く、数多く用意できるかにある
見落とされやすいのは衛星側である。代替衛星を平時から備えるのは、いわば宇宙版の防災備蓄だ。保管中の劣化、電池の寿命、定期点検といった維持の費用がかかる。高性能な大型衛星を一機ずつ作る方式では、予備を持つ余裕がない。同じ設計の小型衛星を量産し、費用を下げる必要がある。2022年のウクライナ侵攻の直前には、商用衛星の通信網がサイバー攻撃を受け、その後スターリンクの端末が代わりに使われた。数が多く、入れ替えが速い仕組みの強さを示した事例である。日本が備蓄を絵に描いた餅にしないためには、衛星の量産体制づくりがロケット開発と同じ重さを持つ。
ビジネスへの影響
防衛需要は、部品から地上設備まで仕事の裾野を広げる
政府が代替衛星と小型ロケットを本格的に調達するなら、受注先は大手だけにとどまらない。小型衛星の部品、電源、通信機器、地上の管制ソフト、射場の整備や保守まで、仕事は細かく分かれる。中小企業にとっては、民生品で磨いた技術を防衛向けに転用する入口になりうる。ただし防衛調達は情報管理や品質証明の要求が重い。まず自社の技術がどの工程で使えるかを洗い出し、取引のある大手との接点を作るのが現実的な第一歩である。
衛星に頼る事業者は、止まった時の手順を今のうちに決める
防衛と無関係な企業も影響を受ける。物流、農業、建設、海運は、位置情報が止まると業務が止まる。衛星が使えなくなったとき、自社は何時間持つのか。一度書き出してみてほしい。地上回線や別の衛星サービスへ切り替える手順を決め、年に一度は訓練する。費用は小さく済むが、止まったときの損失は大きい。投資の判断では、防衛予算の増額が追い風になる一方、ロケットの失敗が続けば計画が遅れることも織り込みたい。関連企業の評価は、期待ではなく打ち上げ実績の積み上がりで見るのが妥当である。